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佐賀地方裁判所 昭和30年(行)6号 判決 1957年4月04日

原告 香月袈裟六 外二名

被告 佐貿県建築主事

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告等訴訟代理人は「被告が昭和三十年十月十九日訴外医療法人聖医会に対してなした建築確認処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は本案前の申立として「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、本案につき「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告等の請求の原因

一、訴外医療法人聖医会は佐賀市松原町六九番地に木造二階建各床面積二二一、一平方米の病棟を増築するため、昭和三十年十月十五日被告に対し建築確認の申請書を提出したところ、被告は建築基準法(以下法という)第六条第一項に基き同年十月十九日附確認番号第一六九号を以て右申請書を確認する行政処分をなし、即時右医療法人にその通知した。

二、然し乍ら右申請にかかる建築計画は法第四十三条乃至佐賀県条例第四十三号建築基準法施行条例(以下条例という)に違反し確認すべからざるものであり、しかも右法条の敷地と道路の関係及び敷地の形態に関する規定は火災の場合の消火避難の必要並びに衛生関係等の公共性の考慮から設けられたものであるから便宜才量を容れる余地の全くないものである。即ち、

(一)  本件建築物の敷地と道路の関係をみるに、該敷地は西側の県庁通りに巾員一・八二米、北側の松原小路に巾員二・七三米のいずれも長さ二十米を超える路地状部分によつて接しているような状態にあるところ、

(二)  被告は右建築確認の申請書に対し同条例第十八条第一項を適用して本件確認処分をなした。建築基準法第四十三条第一項において一応すべての建築物の敷地は道路に最低限二米以上接しなければならないと定めているがそれでは避難や通行の安全を期せられない場合が多く又地方によつて建築物の利用度の差異を生ずることが考えられるので同条第二項において右建築物の敷地と道路との関係につき条例によつてより以上の必要な制限を附加することができることとし、右条例第十八条はその趣旨に則つて設けられたものであるが、条例第十八条はただ階数二以上且床面積の合計二百平方メートルをこえる病院等の特殊建築物の敷地が道路に接する場合道路に接する敷地の長さは四メートル以上要することを規定しているのみで、本件建築物の如く敷地が路地状部分を以て道路に接する場合を規定しているものとは云えない。然るに同条を適用してなした本件確認処分は違法なものといわねばならない。このことは特殊建築物の特殊性を重要視して特殊建築物は路地状部分だけで道路に接する敷地には建築してはならないとしている東京都安全条例第十条からも十分に理解できることである。

(三)  仮に同条の適用があるとしても、同条は建築物の敷地が道路に接する部分の長さは四米以上なければならないと規定しているのであつて、本件路地状部分の道路に接する部分の巾員は前記のとおりいずれも四米に達しないのであるから、この点から云つても本件確認処分は違法である。なお被告は右路地状部分の道路に接する二ケ所の長さを合算することにより右要件を充たし得るとの見解をとつているが、かかる措置は建築基準法及びこれに基く条例が立法上避難及び消火の目的の為に通行上支障のないように考えて一定の敷地の長さを要求していることから判断して敷地の二個所の長さの合算を以てしては到底右所定の長さと同じ効用を果すものと考えられないから、理不尽な取扱いというべきである。

(四)  又同条例第四条によれば普通建築物の敷地が路地状部分によつて道路に接する場合につき、その敷地の路地状部分の長さが二十米を超えるときはその巾員が四米なければならないと規定し、本件建築物のような特殊建築物については同条例で別個に定めると規定しているのに拘らず、同条例には特殊建築物の敷地が路地状部分によつて道路に接する場合につきその路地状部分の長さ及び巾員につき全く規定せず条例に不備があるといわねばならないところ、普通建築物と特殊建築物の性質上の差異から特殊建築物の敷地と道路との関係において普通建築物の場合以上の路地状部分の巾員等の要求されるのは当然のことである。しかるに本件特殊建築物の敷地は前述のとおり普通建築物の敷地につき必要とされている路地状部分の要件をも充たしていないのであるから、本件確認処分は違法であるといわねばならない。

三、原告等はいずれも本件建築物の隣接地の家屋居住者であるが、右条例に違反する本件確認処分により建築された結核病棟のために日常保健衛生上不断の悪影響を受け又火災等の不測の危難の場合は避難の点からも、周囲に防火設備を施していない木造建築物が密集し類焼の危険性が極めて大であることからも甚大なる影響を受けているので、原告等は本件確認処分の取消を求める法律上の利益を有しているものである。

第三、被告の本案前の答弁

一、原告等は本件について異議申立も訴願もせず直接本訴を提起していて、行政事件訴訟特例法第二条に所謂訴願前置の要件を充たしていないから、本訴は不適法というべきである。しかも訴願前置を経ているかどうかの判断は裁判所の職権調査事項であるから訴訟の如何なる段階でも考慮されなければならない。

二、行政処分の取消を求めうるものはその行政処分によつて直接権利の侵害を受けたものでなければならないに拘らず、原告等はいずれも本件確認処分により直接利害関係のない第三者であるから、訴外聖医会に対し相隣関係に基く権利を主張することは格別、被告に対し当該行政処分の違法を主張する適格を有しない。なお結核患者収容の病棟は建築基準法に所謂伝染病院に該当しないのでその建築位置については何等の制限がなく又防火の点は十分に消火設備が施されおり更に避難通路に関する規定はこれを使用する建物居住者にのみ利害関係のあるもので原告等に利害関係はないものであるから、これらの利害関係を以て本件確認処分の取消を求める訴の利益があるということはできない。

第四、被告の本案に対する答弁

請求原因事実一項、二項中本件建築物が建築基準法又条例にいう特殊建築物であること及び本件建築物の敷地の松原小路に接する長さが二・七三米であること、三項中原告等が本件建築物の隣接地の家屋居住者であることは認める。その他の事実は否認する。就中、

一、本件建築物の如き特殊建築物については、普通建築物に関する規定である条例第四条は適用乃至準用されない。

二、本件の特殊建築物には条例第十八条が適用される。同条第一項によると特殊建築物の敷地が道路に接する場合その敷地の長さは四米以上なければならないと規定しているのであるが同条の解釈として敷地が道路に接する場合一個所において四米以上を必要とする趣旨ではない。これを本件について見ると本件敷地の西側県庁通りに接する敷地の長さは二・三二米で、北側の松原小路に接する敷地の長さは二、七三米であり、右二個所を合計すると四米以上であるから同条に適合するので本件確認処分は違法ではない。この解釈の正当であることは本件建築と異る規模の特殊建築物につき条例第十八条で道路に接する敷地の長さとして「敷地外周全長の四分の一或は五分の一」というような定め方をしていることからも十分に窺え、又建築基準法は第四十三条において敷地が道路に接する部分を二米以上とする一定の基準を示し、条例はその基準を引上げて四米以上と定めているが、これら立法の精神は通行の安全又は緊急の避難等を考慮する公益的見地から出ているものであり、右基本たる法律において二米で足りるとしている以上その法律に基いて制定せられた条例の解釈として一個所で各々二米以上ありその接する部分の長さを合算して条例所定の四米に達するならば何等違法な点はないというべきである。

第五、被告の主張に対する原告の答弁

一、本訴が訴願前置を経ていないことは争わないが、かかる被告の抗弁は時機に遅れたもので許されない。

二、なお建築基準法第九十六条の規定の趣旨から云つて建築審査会に対する異議の申立と裁判所に対する提訴とは選択的に許されているものと解することができるから、本訴は適法である。

三、更に原告等は訴願を経由するときは時日を費しその間に訴外聖医会の本件建築工事が進捗し完成に至るときは著しい損害を蒙ることが予想され又建築審査会の構成員の状態から考えて異議の容れられない結果が予測されたので、訴願を経ないで訴を提起したものである。

第六、(証拠省略)

理由

第一、先ず被告の本案前の抗弁について判断する。

一、本訴は訴願前置を経ていない不適法なものであると被告が本案前の抗弁の申立をなしたのに対し、原告等は該抗弁は時機に遅れたもので排斥されるべきであると争つたが、右訴願前置を経ているかどうかの判断は所謂職権調査事項であつて当事者の主張乃至認否にかかわらず、又訴訟の如何なる段階を問わず裁判所において常に顧慮しなければならない事項であるから、先ず右訴願前置に関する点から考えることとする。

被告が原告等主張のとおり訴外医療法人聖医会提出にかかる申請書を確認する行政処分をなしたところ、原告等が右処分に対し訴願を経ることなく直接本訴を提起したことは当事者間に争いのないところである。そこで建築基準法をみるにその第九十四条、第九十五条には建築主事のした処分に対し不服のある者は建築審査会に異議の申立乃至建設大臣に訴願(以下この両者を訴願と略す)をすることができる旨規定し、同法第九十六条には同法及びこれに基く命令若しくは条例の規定は建築主事のした処分に不服がある者の裁判所に出訴する権利を妨げるものと解釈してはならない旨規定していて、法文上訴願と訴訟のいずれを選ぶかは自由とする趣旨のように解釈できるので、以下訴願前置に関する行政訴訟特例法第二条との関係を考えてみよう。建築基準法は行政訴訟特例法の施行された昭和二十三年七月十五日以降の同二十五年十一月二十三日に市街地建築物法に代るものとして施行されるに至つたものであり、又右市街地建築物法第二十一条、第二十二条の行政訴訟特例法施行以後の解釈としては訴願と訴訟を選択的に許すものと解するのが相当であり、更に建築主事等の処分に対する異議申立期間、その裁定期間、訴願申立期間等につき他の場合に較べ非常に短い期間が定められていることから考えて建築に関する処分の性質上その解決乃至救済が早急を要するものであることが窺え、これらの点より判断すると右法第九十六条で訴願と訴訟を選択的に許していることは理由のあることであり、一方訴願前置に関する行政訴訟特例法の規定は常に必ず訴願を前提として要求する趣旨のものではないと解されるから、法第九十四条、第九十五条に訴願に関する規定があつても、法第九十六条における訴願と訴訟との関係は選択により直ちに出訴することができると解するを相当とする。

すると原告等が被告の違法処分の取消を求めるため訴願を経ないで直ちに本訴に及んだことはなんら違法でないというべきである。

二、次に原告適格があるかどうかを考えることとする。

抗告訴訟において何人が正当な原告になり得るかの問題は一般の民事訴訟の原則によるから、抗告訴訟の正当な原告となり得るためには行政処分の違法を主張するにつき法律上の利益を有するものでなければならない。

而して右「法律上の利益」とは何をいうのかについては、個々の法律の保護している利益との関連で個別的に決しなければならない。

それで本件について検討するに、原告等が本件確認処分の名宛人(建築主)でないことは当事者間に争いがない。しかし当事者間に争いのない原告等はいずれも本件建築物の敷地の隣接地の家屋居住者である事実及び本件建築物の規模が床面積各二二一・一平方米に及び木造二階建結核病棟である事実、更に昭和三十一年一月二十日及び同年五月十九日の裁判所の検証の結果により認められる本件建築物の敷地は松原小路に長さ二五・五八米巾員二・七三米(右巾員については当事者間に争いがない)、県庁通りに長さ二三・六三米巾員東方約三分の一につき二・〇六米その他の部分につき二・三六米(この二・三六米は敷地の巾員一・八二米と訴外聖医会が訴外株式会社富国生命から承諾を得て使用している部分の巾員〇・五四米を合せたもの)の路地状部分でそれぞれ道路に接している事実(右認定に反する甲第一号証の二、第三、第四号証の記載部分は、右検証の結果と対比してたやすく措信することができない。)並びに弁論の全趣旨を綜合して考えると、原告等は本件建築物の完成後において特に火災の場合には消火乃至避難上からいつて一応不測の危難にさらされるおそれがないとは断言できない立場にあることが認められる。而して建築基準法乃至これに基く条例は単に建築主のみの個人的利益を考慮しているものではなく、国民の生命、健康及び財産の保護をはかり以て公共の福祉の増進に資する目的から建築物の敷地、構造、用途等に関する最低の基準を定めて行政上の規制を加えているものであり、法第六条における建築主事の確認処分は右最低基準に適合するかどうかを判断するものであつてみれば、法第九十四条乃至第九十六条の「建築主事の処分に不服がある者」とは、必ずしも右建築主事の不許可又は不受理の処分について申請人乃至右処分の名宛人に限定すべきではなく又所有権、地上権等の権利侵害を受けたもののみを指すと考えるべきでなく、広く右法律によつて保護されている利益の侵害を受けているとみられるものをも含むと解するのが相当であり、原告等のような相隣関係におかれていて、他人の建築申請の違法な確認によつて建築が進められると特に火災の場合前述のような虞れがあると一応考えられる者は、単に事実上の不利益乃至反射的不利益を受けるというに止まらず右法律上の利益の侵害を受ける者と考えられるから、右「建築主事の処分に不服がある者」に該ると解するのが相当であり、原告等は原告適格に欠ける者ではないといわねばならない。

よつて被告の本案前の抗弁はすべて理由がないことに帰する。

第二、そこで進んで本案について判断する。

一、請求原因一項の事実は当事者間に争いがなく、前認定のとおり本件建築物の敷地は松原小路に長さ二五・五八米巾員二・七三米、県庁通りに長さ二三・六三米巾員東方約三分の一につき二・〇六米その他の部分につき二・三六米の路地状部分でそれぞれ道路に接していることが認められる。

二、それでかかる形態の敷地につき、被告が条例第十八条第一項に則つてなした確認処分が適法なものであるかどうかを考えてみることにする。

法第四十三条第一項は一応原則として建築物の敷地は道路に二米以上接しなければならないと規定するが、それでは特殊建築物(本件建築物が特殊建築物であることは当事者間に争いがない)の特殊性から避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと考えられる場合があるので、同条第二項でその目的を達するように条例で必要な制限を附加することができると定め、佐賀県条例第四十三号建築基準法施行条例第十八条はそのために設けられたものであることが明らかである。而して右条例第十八条には階数二以上且つ床面積の合計が二百平方米をこえる病院の如き特殊建築物の敷地が道路に接する部分の長さは四米以上としなければならない旨規定しているが、その「敷地が道路に接する部分の長さ」の意義につき当事者間に解釈を異にし、被告は敷地が路地状部分によつて道路に接しているかどうかを問わず敷地が道路に接する部分の長さをいい路地状部分の有無に関係なく条例第十八条の適用があるというのに対し、原告等は右「敷地が道路に接する部分の長さ」とは敷地が路地状部分によつて道路に接している場合の路地状部分末端の道路と接する部分の長さを指称するものではないから斯様に敷地が路地状部分によつて道路に接する場合には条例第十八条の適用はないと解し、このことは条例第四条第一、二項で普通建築物についてさえその敷地が路地状部分によつて道路に接する場合には特別にその路地状部分の巾員を要求していることから明らかであり又同条第三項で特殊建築物について右規定を適用しないと云つていることはとりも直さず普通建築物に較べ建築の特殊性からより一層の通行上の安全をはかるため普通建築物の場合以上の制限を附加しなければならないと考えているからであり、更に東京都安全条例第十条の「特殊建築物は路地状部分だけで道路に接する敷地には建築してはならない」という規定からも類推して解釈できるところであるという。それで検討を進めるに、右「敷地が道路に接する部分の長さ」の解釈は、前述のように条例第十八条が法第四十三条第二項に基き特に避難及び通行の安全の目的を充分に達するために設けられたという経過から考えて、ただ文字解釈に捉われることなく、法の目的から判断しなければならないことがらである。それで普通建築物についてみるに一応法第四十三条第一項によりその敷地は道路に二米以上接しなければならないと規制されているほか条例第四条第一、二項でその敷地が路地状部分によつて道路に接する場合につき路地状部分の長さに応じて右二米以上四米以下の路地状部分の巾員を要求しているに拘らず、特殊建築物についてはただ法第四十三条第二項に基き右条例第十八条で法第四十三条第一項の規定以上に敷地が道路に接する部分の長さの制限を附加しているのみでその敷地が路地状部分で道路に接する場合につきその路地状部分の巾員等については何の規定も設けていない。普通建築物について路地状部分の長さに伴つて一定の巾員を要求する規定を設けていながら、普通建築物以上に避難及び通行の安全をはかるべき特殊建築物についてかかる規定を設けていないことは明らかに条例の不備というべきであるが、前述したとおり普通建築物について一方でその敷地が道路に接する部分の長さを二米以上と定め、他方でその敷地が道路に路地状部分で接する場合にその巾員について右敷地が路地状部分なしで道路に接する場合の二米以上の長さを要求している右両規定の関連から考えると、条例第十八条第一項の「特殊建築物の敷地が道路に接する部分の長さ」の意味は特殊建築物についてその敷地が路地状部分によらないで道路に接する場合その接する部分の長さのほかその敷地が路地状部分によつて道路に接する場合にも、路地状部分の長さとの関係からの考慮はさておき道路に接する路地状部分の巾員は少くとも右同条例所定の長さ以上を以て道路に接していなければならない趣旨を規定するものと解すべきである。それ故、条例第十八条は特殊建築物の敷地が路地状部分によつて道路に接すると否とを問わず道路に接するすべての場合に適用があり、而してその敷地が路地状部分によつて道路に接する場合にはその路地状部分の巾員が少くとも同条所定の長さがなければならないことが要求されているのである。

そして右「敷地が道路に接する部分の長さ」とは避難又は通行の安全をはかるために必要と考えられる程度の一定の長さ乃至巾員を要求していることから判断して、右法の目的に副う効用を挙げるためには当然に一ケ所においてその長さ乃至巾員がなければならないのであつて、被告主張のように敷地の道路に接する二ケ所の合算によつて所定の長さに達すれば足りるものではない。

それで本件建築物とその敷地をみるに、前認定のとおり木造二階建各床面積二二一・二平方米の病棟でその敷地は松原川通りに巾員二・七三米、県庁通りに最狭部分の巾員二・〇六米の路地状部分で道路に接しているところ、条例第十八条第一項によるとかかる場合その敷地は四米以上の巾員の路地状部分で道路に接しなければならない旨規定されているから、該要件を敷地が道路に接する一ケ所の部分の長さで充足していない以上、本件敷地は条例第十八条第一項に適合しないものといわねばならない。

然し乍ら被告は本件確認処分にも保安上からする才量が許されるものであるとの趣旨の主張をしているので考えるに、条例第十八条第一項には右趣旨の明文はないが、法第四十三条第一項但書及び条例第四条第一項但書でそれぞれ所定の長さに足らない場合につき「建築物の周囲に広い空地があり、その他これと同様の状況にある場合で安全上支障がないときはこの限りでない」と才量を許している趣旨から考え、又成立に争いのない甲第七号証の東京都安全条例第十条但書で特殊建築物の場合にも保安上からの才量を許している趣旨から判断して、特に右条例第十八条第一項の場合のみに才量が許されないと取扱わねばならない理由はない。それで条例第十八条第一項所定の要件は充たさないが、所定の要件と同様の状態にあつて安全上支障がないかどうかを考えてみることにする。

本件建築物は、前認定のとおり床面積各二二一・一平方米の木造二階建の結核病棟であるが、成立に争いのない甲第一号証の一によれば該敷地と本件建築物の床面積と同所の旧建築物の床面積とを併せたものとの比率が十対五・三であることが認められ、又前認定のとおり本件敷地の道路に接する路地状部分は二個所ありそれぞれ条例第十八条第一項の所定の要件は充たさないが、法第四十三条第一項所定以上の巾員を持ち最低限の法の要請は充たしているものであることが認められ、更に成立に争いのない甲第一号証の二(前述措信しない部分を除く)によれば西側に伸びる右路地状部分の接する県庁通りの巾員は八米の広い道路であることが認められ、これらの事実を綜合して検討すると、本件敷地は条例第十八条第一項所定の長さは充たしていないが、これと同様の状況にある場合で避難又は通行の安全上支障がない場合と解するを相当とする。この点についての原告等の所論は採用することができない。

すると結局本件確認処分は違法なものでないといわねばならない。

第三、結論

以上のとおり本件確認処分は違法なものでないから、右処分の取消を求める原告等の本訴請求はこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十三条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 富川盛介 山田二郎)

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